独特の香りが料理に彩りを添えるしそ。薬味の代表ともいえるしそは、日本食には欠かせない存在です。しかし、しそについて調べると、ただ単に香りが良い食べられる植物というだけではなく、さまざまな漢方にも使われていることが分かります。
この記事では、しその漢方としての役割や、しその歴史について解説します。身近な食材であるしそについて、理解を深めていきましょう。
しそが漢方に用いられる理由
しそが漢方に用いられているということは、何らかの薬効があるはずです。では、しそにはどのような効果が期待できるのでしょうか。しそが漢方で用いられる理由について、まずはみていきましょう。
生薬名
しその漢方での生薬名は、「蘇葉(そよう)」、もしくは「紫蘇葉(しそよう)」です。また、しその種を用いた生薬を「紫蘇子(しそし)」といいます。
蘇葉、または紫蘇葉、紫蘇子には、発汗作用や解熱作用、胃液の分泌を良くして胃腸の働きを整える作用、魚介類による食中毒時の解毒・予防などが期待されています。
そのため、風邪の症状や胃腸の不調などの症状に良いとされる漢方薬に広く用いられています。
漢方に用いられるしその種類
しそには種類が多くありますが、大きく「青しそ」と「赤しそ」に分けられます。どちらも食べることができますが、多くの方にとって目にする機会が多いのは、刺身のつまや酢の物などでおなじみの「大葉」として知られる青しそでしょう。
それに対して赤しそは、食べるというよりも、梅干しや紅ショウガなどの風味や色付けに使われているというイメージではないでしょうか。
料理で使われる機会が多いのは青しそですが、漢方に主に使われているのは赤しそです。
しそを漢方に用いる場合は、しその葉や枝先を乾燥させて用います。収穫するのは毎年7月~9月の夏の時期で、薬効成分が多い最大5cm程度伸びたしその葉を収穫します。
収穫したしそは、選別した後に乾燥させ、加工・調製の過程を経て、生薬の原料である蘇葉となるのです。
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しその歴史
漢方薬にも使われているしそは、歴史のある植物です。ここからは、しその歴史について解説します。
しその名の由来
しそは漢字で「紫蘇」と書きますが、これは、中国の後漢時代に活躍した華陀(かだ)という医師が、薬としてしそを用いたことに由来するといわれています。
カニによる食中毒で瀕死の状態にあった若者に、華陀が紫色の薬草(赤しそ)を煎じて与えたところ、若者は見事回復したのだそうです。そのため、死にかけていた人を蘇らせた紫色の薬草ということで、「紫蘇」と名付けられました。
しその名前の由来を知ると、中国では古くからしそには薬効があると考えられていたことが分かります。また、その当時から、しその持つ解毒作用について知られていたのは興味深いことですね。
古くから日本で栽培されていた
実は、日本人にとっても、しそは古くからなじみ深い植物です。
福井県の鳥浜貝塚で5,000年前(縄文前期)のしその種子が発見されています。また、3,500年前(縄文時代中期)のしその種子が岩手県北上市にある鳩岡崎遺跡でも見つかっており、遥か昔から、広い地域でしそが栽培されていたということが分かります。
しそは、薬としても古くから使われていましたが、飛鳥時代から奈良時代には、仏教の儀式で「香」として使われるようになったようです。
香りをたしなむ文化が生まれた平安時代、しそは白檀や乳香などの香木と混ぜ合わせる植物のひとつとして用いられていたとされています。
また、江戸時代に書かれた「本朝食鑑」には、「紫蘇の葉は魚肉の毒を去る」と記されていますので、その当時から、しそに防腐作用があると考えられていたのでしょう。
そのため、江戸時代にはしそは香味野菜として汁物や漬物に使われていただけでなく、刺身のつまとして使われていました。
このように、歴史をひもとくと、しそは古くから薬や香、食材として使われてきた、日本人にとって身近な植物だということが分かります。
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しそが今も利用されている理由
しそは、縄文時代には栽培されていたとされることから、しそと日本人の関係は5,000年以上続いているということになります。
縄文時代というと、原始人が槍や弓矢を使ってシカやイノシシなどの動物、キジやカモなどの鳥の狩りをしていたというイメージがあるかもしれません。
もちろん、狩猟もしていましたが、最近ではしそ、大豆、小豆などの植物の栽培も行っていたことが分かってきています。
縄文時代に生きていた人たちが食べていた野菜を、現代の私たちが食べているというのは、しそに多くの効能があることも関係しているのかもしれません。
漢方の原料でもあるしそは、古くから発汗解熱作用、整腸作用、抗炎症作用などの機能があると考えられ、用いられてきました。
青じそは抗菌作用が強いとされ、刺身のツマとしても使われていますが、実は江戸時代からすでにツマとして使われていたというのですから、当時の人たちの知恵や知識には驚きです。
また、これまでみてきたとおり、赤じそには漢方の生薬としての薬効があるとされています。梅干しやしば漬けなどの漬物の着色や香り付け、ごはんの混ぜ物、ジュースにするなど身近な食材にも使われているとおり、さまざまな用途に使える野菜です。
そんな、私たちの身近で使われているしそですが、今でも多くの大学で研究されていたり、企業で商品の開発が行われたりしています。
これは、しその成分に高い機能性があると期待されていることの、ひとつの証しといえるのではないでしょうか。
また、古くから漢方の生薬として使われているしその効能について、まだ分かっていないことも多いといわれています。
今後の研究によって、しその成分に今は未だ知られていない効果や働きがあることが発見されるかもしれません。しそは、私たちにとって身近でありながら、そんな期待を抱かせてくれる野菜でもあります。
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まとめ
漢方にも用いられているしそは、古くから日本で栽培されてきた歴史のある植物です。しそには、発汗解熱作用、整腸作用、抗炎症作用などの機能が期待できるとされており、香蘇散(こうそさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、藿香正気散(かっこうしょうきさん)といった漢方薬に配合されています。
今度、薬局などで漢方薬を目にすることがあれば、しそが配合されていないか、パッケージを確認してみてはいかがでしょうか。ただし、しその漢方の生薬名である「蘇葉」もしくは「紫蘇葉」、しその種は「紫蘇子」と表示されているので、「しそ」で探すことのないように注意してください。