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オピニオンインタビュー

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オピニオンインタビュー

特別企画

院内感染対策・手指衛生遵守率向上を目指す上でのハンドケアの役割 ~これからの感染対策は手指衛生遵守と手荒れ対策を両輪で行うべき~

昨今、「手指衛生」は感染対策のひとつとして一般の方々にも広く知れ渡るようになりました。一方で、医療現場では、これまでも様々な感染対策を行ってきています。今回は、感染対策の現状や手指衛生を行うことで発生する手荒れの原因や対策について、感染管理のエキスパートである山形大学医学部附属病院 感染制御部部長 森兼啓太先生、箕面市立病院 感染管理認定看護師 四宮聡先生にお話を伺いました。

森兼啓太先生 写真

山形大学医学部附属病院
感染制御部部長
森兼啓太先生

四宮聡先生 写真

箕面市立病院
感染管理認定看護師
四宮聡先生

院内感染と感染対策の現状

Qニュースなどで「院内感染」という言葉を耳にしますが、どんな現象なのですか?そして、先生方にとって身近に起こっているものなのですか?また、院内感染は、なぜ対策しないといけないのでしょうか?

森兼啓太先生 ZOOOMイメージ

森兼:院内感染とは文字どおり、病院内で発生する感染症のことです。具体的には、もともと感染症にかかっていなかった患者さんが病院に滞在している期間に、他の患者さん、あるいは医師や看護師などの医療従事者から感染症をうつされてしまったり、患者さんがもともと持っていた菌などが感染症を起こしたりといった状態をいいます。

院内感染でも、アウトブレイクやクラスターと呼ばれる集団感染は、誰の目にもわかりやすいですよね。しかし、実はもっと見えづらいものもあります。例えば、点滴のチューブから菌が入って起きる血流感染などがそうです。こうした院内感染は、どの病院でも日常的に発生しており、ゼロにするのは不可能です。
患者さんを感染から守るため、院内感染対策をしてリスクを最小限に抑えることは、我々医療従事者の責務といえます。

Q院内感染を防ぐため、医療現場ではどんな対策をしていますか?

四宮:体にチューブを入れる際の皮膚消毒や、菌を混入させない調剤など、感染管理のマニュアルを作成し、実際に医療現場で手順や方法を守られているかも確認しています。
とはいえ、感染症は種類が多く、また、医療現場では日々膨大な医療行為が行われているため、すべての行為を完璧に管理することは現実的ではありません。そこで、最重要課題として力を入れているのが「手指衛生」の徹底です。

Q医療従事者の方々は、アルコール消毒や手洗いを何度も行うと聞きます。やはり手指衛生は、院内感染対策には欠かせないものなのですか?

四宮:医療従事者は、病気で免疫力の落ちた患者さんをサポートする立場です。そのため、他の職業に比べて、常に手をきれいに保つことが求められます。

森兼:細菌やウイルスの種類によって、接触感染、飛沫感染、空気感染で伝播するものがあり、圧倒的に多くの病原体は、接触によりうつります。
医療従事者は、患者さんに触れなければ仕事になりません。絶対に必要な「触る」という行為が病原体を媒介しかねません。そう考えると、病院で手指衛生がいかに大切かお分かりいただけるでしょう。

院内感染対策における手指衛生

>Q実際に医療現場では、手指衛生を1日に何回程度行っていますか?また、手指衛生を繰り返すことで起きる問題などはありますか?

四宮聡先生 ZOOOMイメージ

四宮:当院の看護師が日勤で働いた場合、多い人で1日200回ぐらいはアルコール消毒を行っています。加えて、適宜流水・石けんによる手洗いも行います。
ただし、患者さんとの接触が多い急性期病棟かどうか等によっても手指衛生の回数は違ってくるため、一概に多ければ良いというわけではありません。
WHO(世界保健機構)が作成するガイドライン「医療における手指衛生の5つの瞬間(タイミング)」に則り、処置やケアごとに適切なタイミングで手指衛生を行うことが重要です。

手指衛生を徹底することで引き起こされる問題は、何といっても「手荒れ」です。多くの医療現場で、手指衛生における手荒れ対策が重要な課題になっていると思われます。

Q医療従事者の中で、手荒れが発生している人の割合はどのくらいですか?

森兼:症状が軽い人も含めれば、少なくとも全体の10%ぐらいの人が手荒れで困っています。多少、手がカサつくけれど、気にしていない人も含めれば、おそらく20~30%でしょうか。

四宮:痛みを感じるレベルだと、10%程度かなという気がします。

Q手荒れが起きてしまうと、医療従事者としてどのようなデメリットがありますか?

森兼:一般に流通しているものとは別に、医療機関で使用されているアルコール消毒剤には、保湿剤が含まれているものが多いため、それにより手荒れが重症化することは、あまりないと思われます。むしろ、問題は流水と石けんを利用した手洗いです。手袋の着用があったとしても、体液や排泄物を扱ったあとは必ず流水での手洗いを行います。そのたびに手指の皮脂や保湿成分が奪われ、手荒れを起こします。
手荒れをしてしまうと、皮膚が傷ついた状態になるため、アルコール消毒剤の使用時にしみて痛みを感じてしまい、消毒を躊躇するようになります。手指衛生を手洗いだけに頼らざるを得なくなります。そうすると、ますます手が荒れていき、手荒れ重症化の悪循環に陥ってしまうのです。
そして、重症化した手荒れは傷が深くなっているために、手洗いをしても手荒れの傷に様々な病原体が残りやすくなることから、自分自身が感染症にかかったり、手指を介して他の人を感染させてしまったりするリスクも高まります。

手指衛生遵守率を高める手荒れ対策の必要性

Q手荒れを発生させないために、医療現場では具体的にどのような対策をしていますか?

四宮:当院では9月頃になると、手荒れ対策を始めるよう、手荒れをしやすい人にメールで呼びかけるなどしています。しかし、まず一番に行ってほしいのは、自分の手に関心を持ってもらうことです。そこがすべてのスタートだと思います。そして、自分の手が荒れることで、院内感染や自分自身に対してのリスクを高めてしまうことを認識してもらうことが必要です。

森兼:まずは手荒れを意識してもらうことですね。当院では、「手荒れしていない?」と声をかけあって、病院全体で意識向上を図っています。

Q手荒れ対策のために使うハンドケア剤には、様々な種類があります。どのように選んでいますか? 先生方が推奨する、効果的なハンドケア方法も教えてください。

四宮:皮膚科の先生が監修した「手荒れマニュアル」内に症状別の推奨ハンドケア剤を紹介し、手荒れの状態に応じて、各スタッフが適切な製品を選べるようにしています。
ハンドケア剤は、どのスタッフも使う量が少なすぎでしたので、ケチらずに(笑)、十分な量を塗るよう指導しています。

森兼:誰もがいつでも使えるハンドケア剤として、院内にポンプタイプのローションを置いています。ワンプッシュで取り出せるので手軽ですし、複数の人が使っても衛生的です。
ローションだと手荒れにあまり効果がない人には、治療効果のあるクリーム等を使用しています。ハンドケア剤の塗り方や、塗りながら行うハンドマッサージ法が書かれた資料を用意し、十分に時間をかけてハンドケアをしてもらいます。手荒れがさらに深刻な人には、皮膚科を受診するよう伝えています。

手荒れ重症度平均スコアの推移 グラフ

1FTU イメージ

森兼:以前、ハンドケアについて我々が調査をした「手荒れ重症度平均スコアの推移」のデータがあります。この調査は、乾燥が進む11月に開始し、モニターの看護師50人に12週間ハンドケアを続けてもらいました。その結果、全体として手荒れが改善されたことが示されました。非常に印象深いデータとなりました。モニターの看護師には、ハンドクリームの使用量(※1FTU)と使用回数(1日4回)を実践いただいたことが改善に繋がったのではないかと考えています。

※1FTU:FTUとはfinger tip unitの略称。指先から第1関節までを1FTUとし、約0.5gで両手のひらに塗る量に相当。

Q今後、医療従事者が手荒れを重症化させないために重要なことは、何ですか?

森兼:手荒れが重症化してしまうと、健康な手肌を取り戻すのは簡単ではなく、アルコール消毒薬がしみてつらい思いもします。そうならないための一歩進んだ対策として、手荒れになってからのハンドケアではなく、手荒れを重症化させないための予防としてのハンドケアをすることが重要です。年中行うことが理想ですが、特に、寒くなり乾燥が進む9~11月頃には十分なハンドケアを徹底し、健康な手肌の状態で厳しい冬を乗りきるのが良いと考えます。

Q感染対策における手指衛生は、ハンドケアと併せて行うことが重要だとよくわかりました。最後に先生方からメッセージをお願いします。

四宮:新型コロナウイルス感染症を経験したことで、一般の方々の間でも、手指の消毒や手洗いへの関心が高まりました。
一方で心配なのは、手指衛生により手荒れが発生する人が増えた結果、せっかく根づいた手指衛生に、マイナスイメージがついてしまうことです。
「感染症対策は手をきれいにすることが大事。しかしそれと同じぐらい、手を荒れさせないことも大事」ということが、世の中に広がることを願っています。

森兼:本来人間にとって大切な道具であるはずの手が、感染症を媒介してしまうのは残念なこと。それを効果的に阻止する方法が手指衛生です。
手を清潔にすることは、親から子に受け継がれてきた基本的な生活習慣です。コロナ禍ということもあり、その重要性が改めて認識されています。ハンドケアで手荒れの重症化を防ぎ、きれいな手を保つことは、これからの時代、ますます必要になってくるのではないでしょうか。

森兼啓太先生 四宮聡先生 ZOOOMイメージ

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